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Humor

ハヤシです。色々その時々書きたいことを書きます。

パニックホラー農業


2048年8月、レタスは最重要指定危険生物の指定を受けた。レタス(学名:Lactuca sativa)は、地中海沿岸、西アジア原産のキク科アキノノゲシ属の一年草または二年草で、30年ほど前までは食用野菜として利用されていたが、近年野菜という表層はカモフラージュであり、内実は冷酷な肉食生物であることが判明。被害は日本国内だけでも200,000人強までに登っており、昨日も首から上がない村民の遺体が複数発見された。政府は「対レタス強硬排除特令」を本国会で可決しており………

    いつからこの森に迷い込んだのかもう覚えてはいないが、あの緑の化け物が家族を食い殺した光景が何度もフラッシュバックしている。あまりに凄惨な光景だったために現実と夢の境なんて無いのではないかと疑いたくなる。ヤツらは動きが素早く、その触手で捕らえられたら最期、頭を食いちぎられ終焉、となる。なんとか妹だけは引き連れて近くの森まで来たものの、この森にも無数の死臭が立ち込めており、森の周りは元はレタス農家が仕事を営んでいたときている。涙と鼻水で濡れた僕の顔はより一層苦渋に歪んでいた。
    奴らの恐ろしさはその触手とガスである。触手は捕食する時の手足となり、ガスは吸い込むと手足の痺れ、目眩のような症状が即時に現れ、人の行動力を絶つ。そういった一連の儀式が行われた後に美食家は食事を行う。我が家の食卓を彩ってきたレタスはもうこの星にはおらず、どの生物よりも獰猛で狡猾な生物ヒエラルキーの頂点に君臨する化け物になっていた。
「お腹が減った…もう疲れた…」
妹がそう漏らすのも無理はなく、もう森に入って朝夜を2度過ごしている。持ってきた500mlペットボトルの水も瞬時に底尽いた。
    目の前の木に自衛隊がもたれ掛かっていた。すでに虫の息で腕を失い、銃は足元でむなしく横たわっていた。僕はその人にすがるように走り寄り、
「大丈夫ですか。ここに助けは、助けはくるんですか。」
と無我夢中で問いかけた。男は、
「いま夜の20時、先遣隊は見たとおり全滅しているが、本隊が朝に到着する予定だ。君たち、この夜が明けたらこの森を抜けなさい。したらおじさんの仲間たちが助けてくれる。どうか生きるんだ、いいね?」
と言ったあと、眠りについた。
何としてでも奴らの目をくぐり抜けて、妹だけは守らなくてはいけない。銃を拾い上げた。その塊は12歳そこそこの子供にはあまりにも重く、同時に責任という圧はその細い足で抱え切れるものではなかった。が、生きることへの執着を諦めるほどではなかった。その時、遥か後方より地面の擦れる音、巨きな物の気配を感じた。違いない、ヤツである。目を凝らす、間違いなくいる。自分の背丈の倍くらいはあるであろう乳白色の塊は悍ましい目を光らせ、獲物を追っていた。それも一体だけではなく、ソレは複数列を成していた。神よ、どうかこの夜だけはお見過ごしください。そう心の中で呟き、妹の小さな手と銃を握りしめる。長い一夜が幕を開ける。



バカバカしいので、この辺で。