自家製人生相談室(2018年6月~)

 私は普段、文筆家として活動をしており、あまり人前に出ないため、読者とのコミュニケーションスペースとして私書箱をweb上に開設しており、いつでも手紙を投函できる仕組みにしています。この取組みは2018年の6月からひっそりと始められていて、いままで送られてきた手紙の総数は5か月で6,000通にもなります。手紙の内容は ①作品の感想  ②お悩み相談  ③悪口  ④自身の作品投稿 という4つに大別できます。投稿される手紙の全てに目を通しています。今回はお悩み相談(とりわけこのカテゴリの投函数が多い)からいくつかピックアップして回答をしていこうかと思います。目は疲れるし、肩は凝るし、他人の問題なので、回答を考える間は他の仕事が手に付かず参ったなあ、という感じでしたが、皆さんが普段考えていることを触れられる大事な場です。ご協力いただいた方にこの場を借りて感謝申し上げます。

 

①──以前、モラルについて「モラルというのは時代によって上がったり下がったりするものではない」と、仰っていましたが、「おおらかさ」「寛容さ」についてはどうでしょうか? 最低限のデリカシーは必要だと思いますが、社会から「おおらかさ」「寛容さ」が失われ、叩けるものは徹底的に打ちのめす。そんな暴力的な思想がはびこっている気がしていて、それは神経症的なところまできていませんでしょうか?なんだか息苦しい社会だと思いませんか? (ダージリン、男性、28歳)

 たしかにルールや規則、こうじゃないとというケースが昔ほどではないですが、不文律として残っている気がしますね。現在の世界はおおらかであることを装うことが一つのブームであるように思います。私も自然におおらかで寛容な人に会うとハッとするので、いつの間にか自分も器量の狭い人間になっているんでしょう。多様化が進んでいるようで画一化も同時に進んでいる印象を受けるので、思想に侵されそうなとき、独自のルールで他人になるべく迷惑をかけず、いかにはみだすかが重要なんじゃないでしょうか。

②──昨日、妻と大喧嘩してしまいました。謝罪したのですが、わだかまりが消えていないような気がします。口論に腹が立ち、こちらから怒鳴ってしまったことも反省しています。腹が立っても怒鳴らない秘訣を教えてください。作品に出てくる男性は、女性に対して怒鳴ったりしませんよね。 (馬車馬、男性、42歳)

 なるほど。日々を生きているとそういうことありますよね。僕はすぐに謝ってその場を収めようとしますね。真っ当な理由と謝罪する態度が相手に伝われば何とかなります。どうしてもそれらが用意できない場合は、時間が経つのを体育座りで待つしかありません。いつだって男の方がバカで弱いと思うので、その戦法しか取れませんね。打ちのめされた時は後日美味しいものを食べて、ぼーっとします。

③──こんにちは。私はひとりランチが苦痛で仕方ありません。仕事柄、ひとりでご飯を食べることが多いのですが、他人の目が気になるのと、ごはんを待っているあいだの時間がどうにも手持ち無沙汰で落ち着きません。どのように過ごせばよいのでしょうか。(小太り、31歳、女性)

 僕は大体一人でご飯を食べるときは外をぼーっと眺めながら待ち、ご飯が出てきたらサっと食べて店を出てしまいます。色々と回りの目が気になったりするのなら、自分の内面とか生活を見つめてみてはいかがでしょうか。夜の営みの新しい展開を考えてみたらどうでしょうか。行為にでんぐり返しを取り入れてみようとか、事のあいだに急にグアバジュースを飲んだらどういう反応をされるだろうか、とか。
 

④──将来の夢がありません。親や友人からは「将来何をしたいか、何になりたいかを見据えて人生を過ごしなさい」と言われますが、どうしても思い浮かびません。ハヤシさんの場合は将来こうなりたいという明確なビジョンがあったのでしょうか? (i'm here、17歳、女性)

 僕は気づいたらこうなっていたというのが正直なところです。何となく筆を取って書いてみたら、それが運良く世にでただけで将来これで食っていこうとか何も明確なビジョンは持っていませんでした。何かとビジョンが明確な人は話していてすごいなあと思います。死ぬまで固められる自信がありません。いまなにをやりたいかを考えるのがビジョンといえば、ビジョンです。

⑤──好きなことは仕事になりえるのでしょうか。私は画を仕事にしたいと思っています。ただ、友人からは好きなことは仕事にしない方がいいと言われます。どう思われますか? (文京区在住マン、21歳、男性)

 別になりえると思いますよ。そうしてる人なんていくらでもいるんじゃないでしょうか。嫌いなことを仕事にする人はM気質が過ぎると思いますが、結局そういうのってスタンスの問題でしょう。私は昔、違う仕事をしていたけど、文筆業にシフトしてから筆を持つとぐったりする時がありました。好きなことを仕事にすると、そういう跳ねっ返りが凄いです。自分の心が動くままに決めたらいいと思いますよ。

⑥──本当に困っていることや悩んでいることを人に相談しますか。私はなんでもかんでも人に話して、方針を作っていくタイプだと思っているのですがいかがでしょうか。先日も恋愛相談を友人にしました。 (響、29歳、女性)

 僕は本当に悩んでいること、困っていることはなるべく他人に話しませんし、話せないですね。他人に話せるという時点でわりあい整理ついちゃっていませんか。まだそこまで長い人生を生きているつもりはありませんが、これまでなるべく自分でどうにかやってきました。自分がどうするか、どう考えるかが肝のような気がします。コツをあえて挙げるのであれば、偏屈にならないことと直感を信じること、よく寝ることくらいでしょうか。

 

(This is a work of fiction.The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.)

 

終わり