架空のインタビュー3

    この寡黙な印象から、あの役柄は想像できただろうか?今夏公開となる「路傍」。その作品の主人公となるのが、宇野保志、その人だ。映画の舞台は90年代の千葉県。隣町である東京ではディスコが乱立したり、地下鉄サリン事件など象徴的な出来事が起きていた激動の時代。その派手なトピックの所為であまり取り沙汰にされていないが、千葉で「船橋・行々林銃乱射事件」が起こる。映画はこの死者4名を出した事件を描いている。犯人は2日間の逃走の末、静岡の山中で逮捕されているが、宇野はその犯人である山田幸三を演じている。

18年前、子役デビューを飾った彼がいまその凶行を演じる。その背景には何があったのだろうか?撮影に対する葛藤と役者人生、またその展望を聞いた。

取材・構成:シュザイタイチ 撮影:サツエーコ

 

──先ほど拝見させていただいて、もの凄い熱量の作品でした。

宇野保志(以下、宇野) ありがとうございます。


──今まで演じてきた役柄と全然違うじゃないですか。前作の「ダイバーシティ」では生徒が恋い焦がれる生物教師を演じていて、その前の「バイマイサイ」では盲目の女の子に恋をするパン屋の青年と。この作品の話が挙がったときにはどういった心境だったのでしょうか?

宇野 全然違いますね。でも表面では見え方が違っていても、死ぬほど葛藤しているという点では同じなんです。「ダイバーシティ」では生徒の寿命を知ってしまう先生、また「バイマイサイ」ではハンディキャップを抱えている女の子に惹かれてしまうわけで。今作も銃を乱射するというトピックだけ見れば単なる狂人ですが、そこに至る過程では生物教師やパン屋の青年同様に山田自身も自分と対話しています。なので、意外とその部分で共感出来てしまうんですよ。

──松下監督も「宇野君は日本の若手だと妙味がある。こちら側が葛藤する価値のある貴重な役者。」だと評されています。

宇野 本当にありがたいことですよね。ずっと松下監督の作品に出たいと言っていましたから。出てくれないか、と電話で言われたときには反射的にお願いしますと言っていましたね。

──役を作る際は何か気を付けていることはあるのでしょうか??

宇野 どうなんですかね、そんな意識してないかもしれないです。よくハリウッドの俳優が炭水化物中心の食事をとって、アイスクリームを溶かしてそれで胃を満腹にするとか聞きますけど、人間業じゃないですからね(笑)。今回は資料映像とか新聞記事とかを読んでずっと心の中でその状況を投影するようにしていました。それ以外はもう普段の生活と変わらなかったですね。

──普段は何をして過ごされていますか?映像を観たり、音楽を聴いたりされているのでしょうか?

宇野 僕はテレビも観ないですし、音楽もそれほど聴かないですね。ずっと外にいる気がします。ある日、公園のベンチで座っていて、漫画読んだり、子供を見たりしていたら、半日くらい経っていたことがあった(笑)。本ばっかり読んでいるかもしれないですね。好きな作家はカート・ヴォガネット・ジュニアやミラン・クンデラ。日本の作家さんの本はあまり読んだことがないかも。日本の文芸には湿り気を感じてしまい、そこにあんまり集中できないのかな。


──なるほど。でもドライというのは作品の宇野さんを見るに、すごく腑に落ちる気がします。

宇野 周囲から情が無いとか言われることがありますね。そんなことはないんだけれど(笑)。

──演じる上で何か気をつけていることはあるんでしょうか。非常に繊細な人物を演じる場合が多いと思うのですが。

宇野 気をつけていることと言えば、僕自身感を出さないということに尽きます。上手いなあと思う演者さんには2タイプあると思っていて、その人自身のキャラが立っている人。もう一つはカメレオンのように役毎に使い分けられる人。後者の道を究めたいと常に思っています。僕が好きなジムキャリーエドワードノートンは後者だと思うんですよね。あとはあんまり決まりごとを自分の中で作らないようにしています。毎回、素人が現場に立たせていただいているという気持ちでやらせていただいていますね。

──宇野さんは今年で25歳になるのですが、今後の展望があればお聞かせください。

宇野 僕は一役者であることを全うしたいと思っています。役を与えられたのちに表現できることはやり尽くしていきたい。それ以外は特にいまは興味がないです。来年クランクインする映画もそれなりに重たいテーマを扱います。まずはそういった作品づくりを一つ一つこなしていきたいですね。

(新宿/喫茶ボンにて 2018年11月6日) 

 

(This is a work of fiction.The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.)