架空のインタビュー

いま日本の若手バンドで一番勢いがあるといっても過言ではないであろう「Minnesota shore」。今年だけで言っても、1月に新潟で開催された「UJI ROCK FESTIVAL'18」に出演。デビューから2年半の短いキャリアながら、KIMONO STAGEの約3千人を沸かした。また5月に開かれたUKでの音楽フェス「Lollapalece」に出演。日本人の出演はフェスの歴史から見ても異例である。英国での評価もウナギ登りと言うから驚きだ。またフロントマンの飯竹はバンド活動と並行し、自身でwebメディアを運営しており月間1億回のPV数と並の出版社でもなかなか出せない数字を出している。いまでは30人もの人間を抱える1つの企業となっている。彼らは日本の音楽界におけるドン・キホーテなのか?眼光鋭いビジネスマンなのか?2ndアルバム制作中の多忙なスケジュールの中、そのフロントマン飯竹とベースを担当している岸に話を聞いた。

取材・構成:シュザイタイチ 撮影:サツエーコ

 

──バンドを始めたきっかけを教えてください。

飯竹浩二(以下、飯竹) 学生の時に僕が中心となって始めました。第一志望の大学に入れなかったこともあって、その反骨精神で何かやりたいな、と。で、ジャズ研究会というサークルに入るのですが、結構皆さん本気でジャズをやっていて。当たり前ですけど(笑)。したら、もう全然練習に参加してない当時の岸と近藤(ドラム、コーラス担当)が喫煙所にたむろっていて。「あっ、ダメな人たちがいる」って。


結構バンドは本気でやっていて月に1、2回はライブをしていたりしていたのですが、就職を機に一度だけ1年半ほど休止しちゃうんです。日経200に載るような結構大きな企業に採用されてしまって。忙しかったですねえ。

岸浩一郎(以下、岸) 僕は大学卒業後は就職せずにフリーターをやっていました。レンタルビデオ店と定食屋を掛け持ちしていて。都会暮らしの若い人にありがちなライフスタイルですよね(笑)。しばらくしてから、飯竹から突然電話が来て「仕事変えた。時間が出来た。バンドやろう。」って(笑)。

飯竹 メーカーの社員やっていたんですが、出版社に転職したんですよ。したら、前職と比べて暇なんですよ。全く期待されてなかっただけかもしれないけれど。(笑)だから、もう一度音楽やれるなあ、と。で、前の職場に鍵盤とかサンプリングとかそういったものに強い青山がいて。今、サポートで入ってくれているんですけど。それで、今のメンバーに固まったという感じですかね。

 当時は不思議な感覚でしたね。久しぶりに会ってみて、「お、生きてた?」みたいな(笑)。

──んで、すぐに三鷹にスタジオ(現:ユーロスタジオ)を設立されて。普通いきなりやれないアクションですよね?(笑)。

 僕の親が使ってない土地があるというので、そこ使えるじゃんと思って。それぞれに仕事を抱えているので、分業しないと先に進まないんですよ。毎回時間合わせてスタジオに入る訳にもいかないから。だから、皆でお金を借りてスタジオを建てました。

──そこでミニアルバム「elephant statue」が制作される、と。

 はい、結構スピーディに出来ましたね。飯竹がね、曲を思いつくスピードが結構速いんですよ。制作は飯竹と青山くんがアウトラインを作って、肉付けをみんなでするというのが基本的なスタンスです。

飯竹 青山くんと近藤が結構いろんなジャンルの音楽に精通していて、かなり助けられましたね。僕だけが作るとどうしても既聴感のあるものになってしまうので、ひねくれた要素を入れてくれることで良い意味で異質な曲が出来ています。

──そんな中で、あの「ulps」からツアーの招聘があって?

飯竹 あれは事件でしたね。あれが無ければ、今のMinnesota shoreは無いです。だって学生時代から聞いていたインダストリアル界の重鎮が来日するからそのツアーの前座をやれと突如僕のgmailアカウントに来て(笑)。もうスケジュールを見ると会場の規模が凄いんですよ。今まで僕らは100人入るのかな?みたいなハコでやっていたのに、いきなり何千人単位で……(笑)。

 自分たちの機材で大丈夫なのか……みたいな(笑)。

飯竹 その時普通にガラクタみたいな機材でやってましたからね。近藤なんて自分のドラムセット持ってなかったし。

 

──で、半年後本当にそのツアーが実現して、そこからの反響はどうでしたか?

 「なんじゃこりゃ」というくらいメディアの露出が増えましたね……もうあのツアーをきっかけにレンタルビデオ屋などのバイトも辞めれるくらいに。でもあまりに現実味がなくて、同時に「このスピード感で続けられるのかな」と思い始めましたよね。音楽で飯を食うなんて全く思っていなかったですし。

飯竹 結構リアリストなので、この勢いはいつまでも続かないなと思うところがあって。だから自分が好きな領域で何かやれないかと考えて、在籍していた出版社のコネを使ってwebメディアを立ち上げました。

 今そこのライターとして在籍させて頂いているんですが(笑)。

飯竹 思うのは、やっぱり色んなことを運に任せたくないということですよね。人道を全うするというと大げさかもしれないですが、防御策を出来る限り張り巡らせて、結果どうだったかという風にしなければいけないと思うんです。どのみち人は生きていかなければいけないのだし、音楽をしているときはどこかに基準を合わせるという要素は少ないのですが、webメディアの運営やその他のお仕事はビジネス的な観点で、求めてきている人の希望に合わせてやっています。生き方が多様になってきている現代なので、自分の好きなことだけやって生活するというのにはある種危機感を持たなければいけないと思っています。

 

 おー、耳が痛いですね(笑)。

──ビジネスマンの観点とバンドマンの観点、主軸はどちらに置いているんでしょうか。

飯竹 ビジネスマンの観点を大事にしています。作曲以外のところでは特に。

──興味深いですね。バンド全体としては一体ですが、個人の考え方の拠り所はどこにあるんでしょうか。

飯竹 みんなそれぞれあるだろうけど、僕はやはり就職してからの経験だったりが大きいです。決まりごとの中である程度生活していて、それは一見自由じゃないんですけど、なにも制限がないとそれこそ不自由だということを感じて。だから、結構ビジネスライクにやっていると思いますよ。だから全部自由気ままにやってますみたいなところなんて当たり前ですけど、何もないです。

 僕は意外と単純に今風の若者の目線に近いと思いますよ。今年で僕は26になるんですけど、書籍からしか情報を得ていないんじゃないかというくらい本しか読んでいません。PCも滅多に触らないし、テレビなんて中学入ってから見てないんじゃないかな。いまの若い人ってどこか自分の好きなこととか興味とかに特化している気がするんですよ。だから、その感じに近いと思っています。

飯竹 バンドという共同体ではあるけど、馴れ合いみたいなところはないですね。いわば会社組織に近いです。ダメなところはダメだと言うし、ダレていたら引っ張りあげる必要がある。でも、そういう関係が凄く快適ですね。

──なるほど。ドライに活動をしている印象があったのですが、1年前くらいのライブで「もっと想像力を働かせるべき」という結構熱のこもったMCがすごく印象的だったのですが。

飯竹 その頃、公私共々バタバタしていて。僕の発言が各所に取り沙汰にされて、当時所属していたレコード会社からすごい注意を受けたんですよ。そのフラストレーションから出たMCですね。でも、大人の言う事を文面そのままの意味で取ることほど、アホなことないと思うんです。その先、その裏の文脈を汲んでいかないと、それこそ思考停止じゃないか、と。そこは結構バチバチしていました。自分のフィルターに透過させて、その結果間違っていても価値が生まれるじゃないですか。そっくりそのまま返す伝書鳩なら要らないと思っていたので。

──その後、レーベルから独立して、制作される発表しています。

飯竹 はい。一連のやりとりも終わったので、腰を据えるにはどこがいいかな、と考えまして。レーベルに所属する必要性もそこまで感じなかったし、ルールも自分たちで定められるために今の決断をしました。簡単なことではなかったのですが。

 

──今年の11月に2ndアルバムが発売されるとアナウンスされました。その作品についての今後の展望についてお聞かせください。

 とりあえず1stの手探り感が薄まったせいか、客観的にみると良い意味でこなれてきていると思います。これでウケなかったら手探り感を出すために当分音楽から離れてまたイチからやることを考えなきゃいけなくなりますね(笑)。

飯竹 あんまり深いことは考えておらず、素で作ったので、やりたいことをやったんですがいかがでしょうか、という感じです。これからは何となくなんですけど、実験的な試みをしたいと思っています。メンバー40人くらいにしたり、アカペラアルバム作ったり、考えだすと全然取り留めもないですね(笑)。

 曲数からみても16曲ボリューミーなのですが、難産ではなかったですね。次は難産な作品を敢えて作ろうかということを話したりしています。全曲コラボレーションしちゃうとか(笑)。

──今後は海外のライブを積極的にされると聞きました。もう一回りしたら、活動規模も倍くらいになっているのでしょうか?

飯竹 そうだと、いいですよね(笑)。バンドは存続できるのかな?

 解散するときはやることが思い浮かばなくなっちゃったときですかね。それでもまあ、レンタルビデオ屋には戻らないと思いますよ。次は漁船にでも乗ろうかな(笑)。